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NPO法人ニュースタート事務局関西

直言曲言(代表コラム)

直言曲言 第276回 年少化

  引きこもりが「社会問題化」して11年。そろそろ「下火」になっていくかと思っていたが、今年は明らかに再び増勢に向かっている。私たちニュースタート事務局関西が定期的に開催しているイベント「引きこもりを考える会・例会」「父母懇談会」「個別面談」などの参加者はほぼ倍増している。今年はサブプライムローン破たんによる金融危機に引き続き、「派遣切り」などの失業問題が席巻し、去年から今年にかけての問題でこんなに早期に引きこもりが増加したとも思えないのだが、親の側の危機感が問題を顕在化させたのだろう。11年前に二神氏の呼びかけで関西におけるニュースタート事務局活動に手を染めた時、現役の社長でもあったし、ボランティアとしての兼任仕事であった。「そろそろ兼任は無理になるのではないか」と二神氏が予言したとおり、私は社長を退いて専任の関西代表を名乗り、しばらく様子を見ていた妻も一切の雑用を引き受けてくれるようになった。やがて出入りしていた若者たちもボランティア仕事を引き受け、彼らがまた新しい仕事を生み出し、今ではかつて私が社長をやっていた退任時の会社よりも規模が大きくなっている。そのうち私が脳梗塞に倒れ、妻や仲間の若者たちに支えられて車椅子でなんとか定例活動は維持しているものの、資本金もなしのNPO法人。行政的な支援もなく、NPO活動はいずれ消滅していくものだと思っていた。ところが今年になって最近の活動は拡大傾向にある。

 傾向と言えば、引きこもりの若者の年長化傾向も見受けられる。引きこもりは15〜20歳くらいが中心年齢だと私は言ってきた。中学生くらいから、社会参加のころにかけて対人恐怖から前に進めなくなり引きこもる。ただ、親たちが過保護になり、囲い込んでしまう場合には稀に、大学を卒業してから引きこもる例もある。最近は引きこもりの年長化も言われ、40歳超の引きこもりも報告されている。ニュースタート事務局関西においても35才過ぎの引きこもり例はざらで、中には40歳すぎの人が一人で現れることもある。この「一人で現れる」と言う現象にも推測されるのだが、この年齢まで「親が放置」していたのであろう。

 私たちニュースタート事務局関西は11年前の1998年、10月から定例会を始めているが、定例会を始めて間もなくのころに何回か参加しておられた親御さんがおられた。かなり特異な症例、と言うより特異な言動をする親御さんなので覚えていた。引きこもりについてもかなり勉強をされていたようで引きこもり関連の著作も読んでおられ、精神科医の言うことについての知識についても豊富で会ったようだった。当時から良くおられた「ドクターショッパー」とか「カウンセラーショッパー」と呼ばれる習癖の方で、ショッピングをするようにお店周りをされるのだが、どの店でも買わずに商品知識についてだけやたらに長けている人のことだ。引きこもりについてもあちこちのカウンセラーや精神科医についての情報を集めるのだが、どこでもそれを信用せず、いつまでも相談機関めぐりをする。私たちの眼からすれば、引きこもりのお子さん以前にこういう「ショッピング」を続けている親御さんの方の「人間不信」の方がよほど深刻だと思える。中途半端な知識があるだけにどこの相談機関に行っても、相手が信用できずにいつまでも問題解決に着手できない。親の人間不信はともかくとして、そのおかげで10年近くも引きこもりを放置されている当事者の方は大変だ。この親も10年近く経って同じお店に舞い戻って来たのだろう。全国に引きこもりの支援機関が何百あるのかは知らないが、デパートの数ほどあるとしても同じお店に戻ってくるのは不思議ではない。ただしすでに10年近くが経過している。あの頃よりも10年近く年長になっていて当然だ。

 「30代後半や40歳代の引きこもりが増えている」との言説はよく耳にするのだが、引きこもりの「年少化」については聞いたことがない。近頃、私は年少(つまり15歳以下の)引きこもりやその両親にお目にかかることが多い。

 私はそもそも「心理学」を信用していない。しかしその中では「児童心理学」や「発達心理学」には納得できる実験結果や考察結果が多い。最近のそれらの成果の中で、思春期や反抗期が低年齢化しているとは聞いたことがない。引きこもりに年少化傾向が見受けられるのはなぜだろう。私立中学への進学が増えてきたのは10年以上前からのことだ。特に東京周辺や大都市ではその傾向が顕著で漸増傾向にある。その前から校内暴力など「荒れる」傾向があり、「静かな学校生活を送らせたい」と言うのが親の主張である。しかし「校内暴力」などが一段落しているのに私立中学志向が治まらないのは、他の理由があるからである。大都市圏中心に公立高校の東京大学への進学生徒数は激減し、上位は私立の中高一貫校が常連を占めている。近年では、公立の中高一貫校が増え、ほとんどの都府県に出来ている。つまり東京中心だった私立中学志向が、全国的に中高一貫校志向になり、中学受験ブームになっている。中学を受験するのだから、小学校5年から2年間勉強するというのが一般的な常識らしい。NPO法人ニュースタート事務局の理事長二神能基氏の最新著作「『子供のために』を疑う」(朝日新聞出版¥740)によれば「中学受験の勉強は1年間」が原則だそうだ。しかし2年間勉強するのが常識となっているとすれば、実際には3年間も4年間も勉強する子もいるようだ。中高一貫校の受験と言うことはそれ自体大学進学に向けた激しい競争社会への突入を意味する。小学校の低学年から激しい受験勉強を強いられる子どもたちの姿が見える。10年前にはなかった12才や14才での引きこもり開始と言う現象が現れている。小学校低学年から有名進学塾に入らせ、兄弟の中でその子だけが有名中学に進学出来たという事例はある。しかし、15年も過ぎた今、有名進学塾へ進んだ子も強いられた勉強の中ではやがては疲れて力尽き、受験勉強の効果も消えてしまい、有名中学に落第した子は明らかな兄弟差別を受けて、早くから引きこもり、結局兄弟ともに引きこもり生活を続けているのを見ていると、親の歪んだ教育観が子どもたちの引きこもりを加速しているとしか思えない。こんな場合も親は「中学受験は親の強制ではなく、子どもの自主的選択だった」と言う。こんな事例を私たちは何百例も見てきた。これはほとんど親の無干渉の「偽装」だと二神氏は言い、仮りに偽装ではなくても親の記憶の美化か塗りつぶしであると私は思う。競争社会が緩和され、そこでの勝ち残りを親たちがわが子に望まなくならない限りニュースタート事務局は消滅することも許されない。

2009.09.30.